「椎茸と昆布の佃煮」の商品化は、最高の素材を探究するところからスタートしました。
椎茸は原木栽培の干し椎茸の中でも特に旨味の強い2品種を選定し、収穫される時期も旬である冬から春にかけて収穫された“春子(はるこ)”を使用。次に昆布は、旨味成分として知られるグルタミン酸を昆布の中で最も多く含むとされる北海道知床半島の羅臼昆布を採用しました。
そして佃煮づくりに欠かすことのできない醤油は、大分県で1905年から続く老舗の蔵による本醸造の大分県産の大豆と小麦を使用した醤油を選んでいます。私たちがこだわり抜いた椎茸や昆布の歴史、生産の背景、佃煮が出来上がるまでの工程など、“美味しい!”の裏側にあるストーリーもぜひ、紹介させてください。
樹木の養分を蓄えながら育つ原木椎茸の歴史は諸説あり、一説では大分県が栽培発祥の地であると言われています。
はじまりは江戸時代にまで遡り、その技術は当時から日本各地で高く評価をされていたとか。そして地域の森林資源を活かした環境負荷の少ない産業ゆえに、基本的な工程は昔から変わらないまま。大分県は干し椎茸生産量(原木栽培)が全国1位という数字を誇り、中でも国東半島は良質な産地として知られています。
けれど両子火山群から形成される国東(くにさき)半島は水分の確保が難しく、ゆえに自然環境を生き抜くための知恵と信仰が育まれてきた土地。そのため原木椎茸の栽培方法にも個性が光り、地域には貴重な水分を確保するために数多くのため池がつくられてきました。
ため池の水は周辺に植樹されたクヌギの葉などが腐葉土となり、雨水と一緒に流れ込むため栄養分がたっぷり。2013年にはこのような「循環型の農林水産業」が高い評価を受け、世界農業遺産にも認定されました。
クヌギ林
世界農業遺産に認定されたくにさき半島は約1200ものため池があります。
くにさき半島は両子火山群の噴火によって出来た起伏に富んだ土地、火山土壌は水分保持が難しい性質があります。
国東半島から全国に羽ばたく良質な干し椎茸を支えているのが、生産者の方々の存在。原木栽培の椎茸に使用される品種は現在20種類以上ありますが、それらの中でも栽培が難しく、生産量も全体の2割程にとどまる「低温発生品種」の栽培に国東半島では多く取り組んでいます。
徳丸商店では1年のうちで最も寒い時期に収穫されるこの品種の中でも、特に佃煮に合う2品種を採用。寒さに耐え抜く中で旨みを増した春のご馳走、「春子(はるこ)」は強い旨みとすっきりとした後味が特徴です。
低温発生品種「115」の種駒
植菌の様子
植菌から約2年後に収穫できます
収穫しやすいように原木が並べられた“ホダ場”の様子
寒い時期に発生する低温発生品種
収穫時期を迎えた春の椎茸
昆布の歴史は椎茸よりも古く、奈良時代にはすでに高貴な人々の食べ物として都に届けられていたと聞きます。そして江戸時代には重要な貿易品となり、昆布は広く日本人の食卓へ。今では和食の原点といえば昆布と周知されるほど、身近な食材として親しまれています。そんな数ある種類の中で私たちが佃煮に採用したのは、味が濃く、香り高い出汁の土台をつくることで知られる「羅臼昆布」。生産量は全体の流通量のうち1~2%ほどしかない最高級品になります。
産地は日本の最北端に位置する、知床半島羅臼町の沿岸。アイヌ語で「地の果て」を意味する「シリ・エトク」を語源とする町は、火山活動や流氷によって形成された険しく雄大な自然と多くの野生動物が存在しており、このような生物多様性と生態系の繋がりから世界自然遺産に認定されています。
知床半島も火山活動により形成されています
自然豊かな羅臼町は海と山が近く山からのミネラル豊富な水が海に流れ込みます。
羅臼町の目の前に広がる根室海峡の海には、シベリアのアムール川からたどりつく流氷が植物性プランクトンを運び、さらに知床の山々から流れるミネラル豊富な水が豊かな海を形成。多様な海産物に大きな恵みをもたらしています。
また羅臼昆布は出荷までに20を超える工程があり、約100日もの長い時間をかけて商品化されていくそう。昆布を収穫した後に「番屋」と呼ばれる建物の中で住み込み、昆布を巻いたり、天日に干したりして旨味を引き出します。中でも昆布の旨味や香りを凝縮させる熟成のプロセス「奄蒸(あんじょう)」と呼ばれる作業は3度も行われます。
昆布の中でも最も手間をかけて作られる羅臼昆布の味は、昆布漁師の長年受け継がれてきた技術によって作られています。
山からの水
流氷の様子
住居兼作業小屋の番屋
7月下旬から8月まで昆布漁のできる期間。2年ものの昆布を海底からねじり取ります
番屋でのヒレ刈りとよばれる形を整える作業
夜が明ける前から作業は行われる
山と海。それぞれ異なる大地で育まれた2つの素材に共通点はあるのでしょうか。私たちは、その答えを地球が抱える自然問題の解決にあると考えています。
原木栽培に利用するクヌギは、樹齢15年を迎えたときが伐採の時期。けれど切り株からは再び芽が吹き、15年後には森が再生されていきます。さらに若い樹木は二酸化炭素を吸収して成長するため、定期的な伐採は二酸化炭素の削減効果まであるとか。
昆布漁も持続可能な水産業を実践するため、収穫時期の制限といった資源管理体制を古くから整えています。また原木椎茸と同様に昆布などの海藻類も多くの二酸化炭素を吸収するため、昆布の育つ豊かな海を維持していくことが大気中の二酸化炭素削減や、海の浄化に繋がっていきます。
海藻類は多くの二酸化炭素を吸収します
大分で長く愛される大分県産の大豆と小麦を使用した醤油を用いて丁寧に炊き、甘辛く仕上げた商品は化学調味料不使用。生産者の方々から届いた干し椎茸は一つひとつの品質を手作業にて選別し、製造の前にも必ず味と香りの確認をするなど、どの過程においても一切の妥協はありません。まずは温かいごはんでどうぞ、アレンジ次第で楽しみ方の幅も無限大です。
明治38年創業の田中醤油店
大分県産の素材を使用した伝統的な醤油づくり
ひとつひとつの工程を丁寧に、じっくりと炊き上げます。